第74回法制史学会総会の参加方法・プログラム(2023年5月23日追加情報)

法制史学会 総会 第74回法制史学会総会の参加方法・プログラム(2023年5月23日追加情報)

          法制史学会第74回総会のご案内(追加)

 

第74回総会案内Web掲載用(最終版):会場の地図はこちら(16頁)を参照

 

法制史学会第74回総会(共催:早稲田大学東アジア法研究所 /後援:同法学会、同総合研究機構)は、対面とオンラインのハイフレックス方式(会場参加を基本としつつZoomでのオンライン参加も可能な方式)で開催します。奮ってご参加下さい。

総会へのご参加に当たっては、下記(2)のご案内方法に従い、5月末日までにお申し込み下さい。総会準備の都合上、期限厳守をお願い申し上げます。

なお非会員の方も、シンポジウム及び自由報告を傍聴していただけます(原則としてオンラインのみ、総会審議除く)。ご関心をお持ちの方々のご参加を心よりお待ち申し上げます。

 

(1)研究報告

第1日 2023年6月10日(土) 午前9時55分開始

(午前9時30分より会場受付開始)

第2日 2023年6月11日(日) 午前10時開始

会場 早稲田大学早稲田キャンパス 大隈記念講堂 小講堂

(会場までのアクセスは16頁をご参照ください。)

参加費:無料

 

(2)参加の申込方法

会場・オンライン参加を問わず、下記のリンク(会員宛に郵送する案内状にも記載しています)から参加登録をお済ませください。Zoomのリンク等の案内は、開催日の1週間前を目途にお送りします。参加申込の締切は5月末日とさせていただきます。

https://forms.gle/wVnYM8JQzu4zVqqv9

※上記フォームの入力につきご不明な点などおありでしたら、(7)およびフォームに記載した連絡先(メールアドレス)宛にお問い合わせ下さい。

 

※重要※

〔報告資料・レジュメのご案内〕

今回は対面・オンラインを問わず、報告資料・レジュメの提供は電子媒体のみとなります(会場でも紙媒体でのレジュメ等の用意はありませんのでご注意下さい)。報告者より届き次第、学会ホームページに掲載するリンク先のフォルダに格納しますので、各自ダウンロードの上ご参加下さい(パスワードは会員宛に郵送する案内状に記載していますが、別途ご案内もいたします)。なお会場ではWi-Fiがご利用になれます。

〔総会配布資料のご案内〕

第2日午後に開催する総会での配布資料も、同様に電子媒体のみでの提供となりますので、学会ホームページ上に設定する別の専用リンクよりダウンロードをお願いいたします。パスワードは、会員宛に郵送する案内状をご覧ください。(レジュメ用のリンク・パスワードとは異なりますのでご注意下さい

 

(3)懇親会

以下の通り決定しました。奮ってご参加下さい。
なお欠席で登録したものの出席をご希望の会員は、準備委員会まで
お知らせいただければ幸いです。

2023年6月10日(土)午後17時半 開始

早稲田大学早稲田キャンパス 8号館3階会議室

参加費:5000円 (学会年会費の減額を受けている若手会員は2000円)

※ 当日、懇親会会場受付で、現金でのお支払いをお願いいたします(お釣りのないよう、ご協力いただければ幸いです)。

 

(4)見学会

見学会は実施いたしません。

 

(5)昼食

今回は、準備委員会では手配いたしません。各自ご用意いただくか、近隣の飲食店やコンビニエンスストア等をご利用下さい(お持ち込みの飲食物をおとりいただけるスペースは、キャンパス内に設ける予定です)。

 

(6)宿泊

準備委員会では宿泊のお世話はいたしておりません。

 

(7)連絡先

〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1−6−1 早稲田大学法学部内

法制史学会第74回総会準備委員会(和仁かや)

Tel: 03-5286-1385 (和仁研究室・なるべくメールでご連絡下さい。大会当日はつながりません)

E-mail: jalha74@list.waseda.jp(緊急連絡もこちらにお願いいたします)

 

 

総会プログラム

 

第1日 6月10日(土)

9:30  会場受付開始 /  9:45  Zoom開室

9:55  開会の辞

 

自由報告〕

10:00〜11:00 「ナチ・ドイツにおける土地収用法制」

森田匠(早稲田大学大学院博士課程)

 

11:00〜12:00 「イギリス近代法と判事—不動産約款を例にして—」

眞嶋叙脩(ケンブリッジ大学大学院博士課程)

 

12:00〜13:30 ・・・・・・昼休み・・・・・・

 

13:30〜17:00   〔ミニ・シンポジウム 1〕

法制史学資料の来し方と行く末―紙媒体資料・蔵書の継承に向けて―」 

 

「趣旨説明」                           和仁かや(早稲田大学)

「アーカイブズ保存論の新展開

—「脱・保管(post-custodial)」時代の渦中で—」

青木睦(前国文学研究資料館)

「特殊文庫の死蔵と再生」

山根泰志(九州大学附属図書館)

「宮崎道三郎旧蔵書の紹介」

新田一郎(東京大学)・田口正樹(東京大学)

「コメント」   ディミトリ・ヴァンオーヴェルベーク(東京大学)

 

 

17:30〜19:30   懇親会(早稲田大学早稲田キャンパス 8号館3階会議室)

 

 

2日 611日(日)

9:30  会場受付開始  /  9:45  Zoom開室

 

10:00〜13:00   〔ミニ・シンポジウム 2〕

裁判記録のあり方を考える:裁判手続IT化時代の課題」 

 

「趣旨説明」          浅古弘(早稲田大学)・藤野裕子(早稲田大学)

「民事裁判のIT化と裁判記録—非電磁的記録から電磁的記録へ―」

菅原郁夫(早稲田大学)

「刑事裁判のIT化と裁判記録—何のために、誰のために—」

福島至(龍谷大学)

「裁判のIT化と裁判記録—台湾の事例—」

浅古弘(早稲田大学)

「歴史研究から見る電子裁判記録の課題

―大規模コーパスの構築・運用の現状から―」

長野壮一(社会科学高等研究院 (EHESS)

レイモン・アロン社会学政治学研究センター博士課程)

「電子記録管理論から見る裁判記録の課題

―アメリカ連邦政府を中心に―」

坂口貴弘(創価大学)

 

 

13:00〜14:30                 ・・・・・・昼休み・・・・・・

 

 

14:30〜16:00   総会

 

 

自由報告〕

16:00〜17:00   「フランス留学時代の富井政章―西洋と日本の美術の架け橋―」

フレイヤ・テリン(ルーヴェン・カトリック大学)

 

17:00〜17:05 閉会の辞

 

 

 

 

報 告 要 旨

 

〔自由報告〕

 

ナチ・ドイツにおける土地収用法制

 

森 田 匠(早稲田大学大学院博士課程)

 

本報告は、ナチ時代ドイツにおける土地収用法に関する議論がどのようなものであったかを明らかにすることを目的とするものである。

ナチ・ドイツの法学にとって、土地所有権や、土地所有・利用に関する法制度は一つの大きなテーマとなっていた。再軍備を目的とした急速な工業振興を背景に、国土計画に基づき一元的に土地を管理し、土地利用の効率化を推進することが政策的課題とされていたためである。このような時代背景から、フランツ・ヴィアッカーをはじめとする法学者は、BGBの自由主義的法思想に対する攻撃を行った「法革新」運動において、所有権の社会拘束性や義務的性質を強調する「所有権の転換」論を展開し、さらに土地に関する全ての法規範を包括的に扱う土地法という新たな法領域の創設を提唱した。

この土地法において重要な論点となった法制度が土地収用であった。ヴァイマル時代までのドイツでは、収用に関する規定はラント法やライヒの特別法における個別規定において各々定められており、ライヒ法上の一般規定は存在しなかった。一方で、軍備拡張や計画経済を遂行するため、収用の重要性は高まっていた。この問題を解決するために、ヴァイマル末期からナチ時代にかけて、ライヒ法上の土地収用に関する一般規定を制定する試みがライヒの省庁や法学者団体であるドイツ法アカデミーにおいてなされていた。しかし、これらの作業の成果は結実することなく終わり、第二次大戦終結までにライヒ法のレベルで一般的な土地収用に関する規定が法律として制定されることはなかった。

このような土地収用法制をめぐるナチ時代の法学的議論は、戦後詳細に検討されてこなかった。本報告では、ドイツ法アカデミー収用法委員会におけるライヒ収用法草案や当時の法学文献などを主な検討素材とし、当時のライヒ収用法制の議論の推移を分析する。

 

 

 

〔自由報告〕

 

イギリス近代法と判事不動産約款を例にして

 

眞 嶋 叙 脩(ケンブリッジ大学大学院博士課程)

 

法典編纂は19世紀の大陸ヨーロッパのトレンドであった。同時期のイギリスでも、ジェレミー・ベンサム(1748-1832)と彼の支持者を中心に法典編纂を求める声が高まった。国家における法の統一といった目的ではなく、訴訟技術の複雑さ、裁判自体の分かりにくさ、裁判の長期化といったイギリス法制度の不合理性への批判から生まれたものであった。ベンサムは、コモン・ローは予測可能性を欠き、産業革命の時代に対応できないものだと考えた。この動きに対して、多くのコモン・ロー法律家が反対の立場をとった。法律実務家にとっては、類推や区別といった法的技術こそが急変する時代に柔軟に対応するのに適しているものであった。19世紀イギリスでは結局、商法など法典化が実現された分野もあったが、全体として合理主義的精神に基づいて法が一挙に体系的に整序されることはなかった。英米法圏における判例法主義の特徴は周知の通りであるが、その実践に関する実証的な研究は日本ではほとんどされていない。本報告では、法律実務家、とくに判事と法廷弁護士がどのようにコモン・ローの法技術を駆使して近代化がもたらした新しい問題を解決しようとしたか明らかにしたい。

本報告で取り上げる不動産約款(freehold covenant)は、19世紀の急速な都市化によってもたらされた弊害の軽減に貢献したと評価されている。当該約款は、土地の利用に関する権利義務を定める制度の一つである。地役権と同様に、承役地と要役地の二つの土地に関係し、利益は要役地そのものの利用のためである。エクイティ上の要件を充す不動産約款は、「土地に随伴して移転する」ため、その効果が当事者以外に及ぶ。当該約款は、中世においては封譲渡人とその継承者に対する担保責任を確保するものであったが、その後は都市計画法の先駆けとなった私法の準則へと変貌を遂げた。実際の訴訟の場に注目し、この変遷についての考察を試みたい。

 

 

 

〔ミニ・シンポジウム 1〕

 

法制史学資料の来し方と行く末―紙媒体資料・蔵書の継承に向けて―

 

企画趣旨

 

和 仁 か や(早稲田大学)

 

法制史学会総会ではこれまで、重要な研究テーマや方法論に関する多くのシンポジウムが行われてきた。しかし今、かかる研究の根幹をなす史料を取り巻く環境そのものに、看過し得ない重大な変化が生じつつある。

歴史資料は、経年劣化、度重なる災害や戦争、あるいは廃棄などの様々な危機に絶え間なく曝され、生き残ってきたものであり、これまでもその継承は決して容易ではなかった。加えて近年では、主たる保存機関であるはずの資料館や図書館の多目的化や、国立国会図書館デジタルコレクションに代表されるようなデジタル化の飛躍的な進展が、研究・教育環境に多大なメリットをもたらす一方で、従来の紙媒体の蔵書・資料の位置付けを根本から脅かしかねない新たな要因ともなっている。

もとより史料に立脚する歴史学分野の一としての法制史学もまた、この問題について無関心であったわけではない。たとえば前世紀の民事判決原本保存運動などは、その代表的な取組の一例であろう。しかしながら、法制史学の学問遺産、とりわけデジタルでは代替し得ないアナログともいうべき歴史資料そのものと、それに対する知見とを如何にして継承してゆくかという課題は、蔵書家・蒐集家としても知られた斯学の泰斗の相次ぐ逝去とも相俟って、いよいよ喫緊の度合いを増している。

かかる認識から、本シンポジウムでは法制史学会として改めて刺激を受くべく、資料保存利用の第一線でこの問題に携わってこられた二人の専門家をお迎えすることとした。すなわち、長年にわたって資料保存学の第一人者として活躍され、民事判決原本保存に当たっても多大なご尽力をいただいた青木睦氏(前国文学研究資料館)、および、大学図書館の蔵書に関するユニークな知見を蓄積してきたライブラリアンの山根泰志氏(九州大学附属図書館)に、それぞれの立場から会員に向けた問題提起も含めてお話しいただく。

碩学の蔵書・資料の具体例としては、新田一郎・田口正樹両会員(東京大学)の紹介により、日本における法制史学のパイオニアである宮崎道三郎の旧蔵書を取り上げる。

以上を踏まえて、法社会学の観点から、日本社会における歴史資料の位置付けの変遷を視野に入れた、ディミトリ・ヴァンオーヴェルベーク氏(東京大学)のコメントを仰ぐ。最後に、全体討論を通じてこの問題をめぐる会員諸氏の知見や経験も披瀝していただき、今後議論や検討を深めてゆく一つの機会としたい。

 

 

 

アーカイブズ保存論の新展開―「脱・保管(post-custodial)」時代の渦中で―

 

青 木 睦 (前国文学研究資料館)

 

アーカイブズの支持体の紙から電子への媒体変化は、「脱・保管(post-custodial)」時代の到来とよばれるほど、アーカイブズ界ではパラダイムの転換を迫る重大な問題として受け止められている。「モノ」ではなく「情報」だけでスペースを問わない電子記録の登場は、従来の「モノ」保存の重要性を後退させるという、質的に新たな危機を伴う。物理的にそのままアーカイブズが「暗所で自壊的消滅」に陥る事態が生じ得るからである。

アーカイブズ資料は、アナログの紙からデジタルが主流になった結果、紙をデジタイゼーション(Digitization)する段階から脱し、デジタライゼーション(Digitalization)へと、いわゆるDX化(Digital Transformation)することが当然とされる風潮を呼び起こして、その傾向はアーカイブズ管理も図書館でも組織活動自身でも変わらない。

明治期以降戦前・戦後の法制に関わるアーカイブズ・図書資料の劣化、研究の根幹をなす資料に重大な変化が生じつつある、という本シンポジウムの課題に対処すべく、まず、多様な記録媒体・メディアの保存実態につき、アーカイブズ資料を中心に保存・修復の現状と問題点を概観する。これまで、アーカイブズの保存・修復については一定の知識と技術の蓄積があるが、アーカイブズ資料については、解決の迫られた切実な問題であることは気付かれてはいるものの、ほとんどの場合対応できずになおざりにされてきた。

そこで、近現代関連アーカイブズの現状、保存・修復・閲覧との関係について紹介し、この問題をどのように考えるべきかを問い直してみたい。その後、アーカイブズの劣化調査と保存管理の問題、さらに紙の延命にむけた最近の動向をふまえ、今後のアーカイブズの保存と公開の課題を共有化したい。

本報告は以上の議論を通じて、日本の法制資料の保存活用の在り方を考えるため、時代と視角を多様化しつつ、以下の項目を含めた課題を提示しておきたい。

・近世における裁判資料の保存公開-民事裁判記録としての松江藩郡奉行所文書

・民事判決原本保存運動を振り返って-近年の裁判関係資料の廃棄について

・災害による住民の基本生活に関わる記録の滅失について

 

 

 

特殊文庫の死蔵と再生

 

山 根 泰 志(九州大学附属図書館)

 

図書館等において所蔵・保管され、ある個人や機関の旧蔵書からなる「〇〇文庫」等と称される、所謂特殊文庫や特殊コレクションについて、近年複数の図書館において様々な事情により廃棄されたことが話題となった。これらはコレクションの存在が認識されていたために問題となったが、そもそも図書館には、本来特殊文庫ないしそれに相当するコレクションでありながら、認識されず、死蔵化されているコレクションが多数存在する。未整理のまま放置されているコレクションはもちろん、受け入れた際に一つにまとめて排架されずに、個々の資料が通常の図書分類に従って分散排架され、本来の一体性を解体されたコレクションについても、特殊文庫としての存在を認知されず、忘れ去られている。九州大学附属図書館においても、忘れられ、死蔵されている特殊文庫が多数存在することが判明し、その視認性を高めるために文庫名の表示や文庫目録の作成、ウェブサイトでの情報発信等が試みられた。さらに、一部の特殊文庫については、主にキャンパス移転を機に再集約・別置し、旧蔵書としてのまとまりを復元することができた。現在は、それらの特殊文庫が継続的に活用されるように、ガイドブックの作成、講演会の開催のほか、寄附事業による財源の確保も進めている。急速なデジタル化や財政的事情等を背景に、蔵書が大量に廃棄されていく図書館において、死蔵された特殊文庫を再生させることの意義を提示したい。

 

 

宮崎道三郎旧蔵書の紹介

 

新 田 一 郎(東京大学)

田 口 正 樹(東京大学)

 

東京大学法学部蔵書中には、法制史講座の初代担当者であった宮崎道三郎に由来するものが多数存する。その大部分は、関東大震災によって壊滅的な打撃を受けた法学部蔵書の再建のために寄贈されたものだが、「宮崎文庫」などとして分類され明確な輪郭を与えられることなく、図書室書庫・法制史資料室書庫に散在しており、その全貌を窺い知ることは容易でない。我々は2018年頃から調査に着手、蔵書印や書込み、図書受入記録などに手がかりを求めて宮崎旧蔵書の析出を試み、ついで学内他部局や他機関に残る宮崎旧蔵書へと調査対象を拡げた。今なお未調査分を残すものの、ひとまず和書・洋書については一定の概観を得るに至った。ここを起点として、蔵書群形成過程の解明や、学問史的文脈への位置づけなど、さまざまな可能性が開かれているが、今回の報告ではシンポジウム趣旨説明にもある「碩学の蔵書・資料の具体例」として、まずは調査の経緯と旧蔵書群の概況を紹介し、学者個人の蔵書が有する価値について議論する一助としたい。

 

 

〔ミニ・シンポジウム 2〕

 

裁判記録のあり方を考える:裁判手続IT化時代の課題

 

企 画 趣 旨

 

浅 古   弘(早稲田大学)

藤 野 裕 子(早稲田大学)

 

民事事件・行政事件の裁判記録は、「事件記録等保存規程」・「事件記録等保存規程の運用について」(事務総長依命通達)・「二項特別保存運用要領」等で管理されている。刑事事件の裁判記録は、「刑事訴訟法」・「刑事確定訴訟記録法」・「刑事確定訴訟記録法施行規則」・「記録事務規程」等で管理されている。

昨年秋、1997年に神戸市で起きた連続児童殺傷事件の全記録が廃棄されていたことが報道され、その後、各地の家庭裁判所で重大な少年事件の記録廃棄が相次いで判明したこともあり、裁判記録の保存のあり方について社会の関心を呼ぶこととなった。重要な憲法判断が示された事件については二項特別保存に付すべきもの(運用通達)とされていたが、『憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ』に掲載されている民事事件137件のうち、118件の裁判記録が廃棄されていた(共同通信)。『事件記録等保存規程の解説(改訂版)(訟廷執務資料第64号)』の解説で、「重要な憲法判断が示された事件の記録等であっても、すべて二項特別保存に付する必要はなく、あくまで保存裁判所が保存期間の満了後も保存するのが相当であると判断したものについて、二項特別保存に付するという趣旨である。」とされていたからである。

このように、紙媒体の裁判記録の管理について多くの課題を抱えているが、裁判手続のIT化時代を迎え、裁判記録も電磁的記録となり、その保存や利用にも多くの課題が見えてきた。

日本でも、民事訴訟手続のIT化が始まり、刑事訴訟手続のIT化も法制審議会で議論が始まったところである。電磁的裁判記録の閲覧がどうなるのか。貴重な文化遺産である電磁的裁判記録を後世に確実に残すためには、どうしたらよいのか。100年後、200年後の歴史研究者が歴史資料として、電磁的裁判記録を利用できるように保存するには、どうしたらよいのか。電磁的裁判記録を保存し、国民が閲覧・利用できるようにするためには、どのようなルールが必要なのか。訴訟手続の専門家、電磁的記録の専門家やデジタル・ヒューマニティーズの専門家を交えて、これらの課題を解決する糸口を見つけるため、裁判記録のあり方を考えてみようとの試みである。

 

 

民事裁判のIT化と裁判記録―非電磁的記録から電磁的記録へ

 

菅 原 郁 夫(早稲田大学)

 

現行民訴法下では、すべての訴訟資料は書面化され、訴訟記録として綴られる。平成16年改正によって導入された電子情報処理組織による申立てを利用した場合も、原則としてその内容を書面に出力し、出力書面を訴訟記録として取り扱うものとされている。そして、作成された訴訟記録は、最高裁の定める「事件記録等保存規程」に従い所定の期間保存される(判決原本は50年)。このような体制が、今回の民事訴訟法の一部改正(令和4年法律第48号)により大きく様変わりする。

同改正法は、訴えの申立てに始まる民訴訟手続の全面的なIT化を目指すものである。たとえば、従来訴状の提出が求められた訴えの提起もシステムにオンラインでアクセスし、訴状に記載すべき事項をシステム上で入力する方法で行うことが可能となり、弁護士等訴訟代理人にはこれを用いることが義務化された。その他、審理過程(口頭弁論、弁論準備手続、和解期日、審尋期日等)の随所でウエブ会議、電話会議の利用が可能となり、書類の送達や送付についても、いわゆるシステム送達の方法が利用可能となる。

このような体制を前提に、訴訟記録に関しては、従来と異なり、原則として電子化され、「電磁的訴訟記録 」として管理すべきものとされる。判決書も、文書ではなく電子データ(電子判決書)として作成するものとされる。これら電磁的記録は、裁判所のサーバーに保管され、当事者および利害関係人はオンラインで閲覧・複写が可能になり、それ以外の者は裁判所に設置された端末を用いて閲覧・複写することになる。本報告では、そういった状況を詳しく紹介すると同時に、「民事判決情報データベース化」といった新たな動きについても紹介する。

 

 

刑事裁判のIT化と裁判記録―何のために、誰のために

 

福 島 至(龍谷大学)

 

刑事裁判のIT化については、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会が設けられ、現在審議が続けられている。審議は主に、①書類の電子データ化、令状など発受のオンライン化と、②捜査・公判手続のオンライン化などをめぐり、行われている。その関心の中心は、捜査機関や裁判所のメリットになることにあるように思われる。いまのところ、裁判記録の利用や保存の利便性から、IT化の議論が行われているわけではない。

他方で、刑事裁判記録の保管・保存と利用をめぐる現状は、どうか。保管されている確定裁判記録については、法律上は原則として誰でも閲覧できることになっている。しかし、実際にはかなり制限された記録しか閲覧できないため、その問題性が以前から指摘されている。研究者が歴史的な裁判記録を利用する場合でも、そのハードルは著しく高い。検察官が記録を保管・保存することの問題性や、記録の保管・保存の理念が不明確であることの問題性などが指摘されている。問題状況は、ある意味では、IT化を論じる以前の問題であるようにも思われる。

本報告では、このような現状を踏まえて、刑事手続のIT化の動きに関連して、まず論じるべき方向性を示す。その際には、裁判記録の利用に関する理念を確認する必要があるだろう。その上で、取り組むべき課題について、具体的に提起してみたい。

 

 

裁判のIT化と裁判記録―台湾の事例

 

浅 古 弘(早稲田大学)

 

「デジタル先進国」である台湾の裁判IT化について紹介してみたい。

台湾の司法院(司法府最高機関)は、1990年代からITを用いて、業務負担の軽減、裁判の効率化と質の向上を図ってきた。裁判手続のIT化にも力を入れ、憲法訴訟・民事訴訟・行政訴訟・刑事訴訟の大部分で、e-Filing(e提出)・e-Case(e事件管理)・e-Court(e法廷)の「3つのe」を実現し、実際に運用されている。また法務部も、業務負担の軽減のため刑事手続の効率化を図って、警察署-検察署-法院(裁判所)のシステムを繋げるとともにAIの積極的活用も始めている。

e-Filingシステム(司法院電子訴訟文書及びオンライン提訴サービスプラットフォーム)には、裁判記録・証拠・判決書が格納される。裁判記録は書記官がアップロードし、裁判書は裁判官がアップロードする。このシステムにアップロードされた裁判書は、書記官がチェックして司法院の「一般公開用DB」(裁判書系統)にアップロードされる。「一般公開用DB」に登載されるのは、米国のPublic Access to Court Electronic Records (PACER)と異なり、裁判書だけである。「一般公開用DB」で公開される判決書の個人識別情報の取扱いは、2010年裁判書遮隠規則で定められている。しかし、裁判記録の閲覧・利用には、解決すべき課題も多く残されている。

この台湾の事例は、日本の裁判IT化時代の裁判記録のあり方を考えるうえで、貴重な示唆を与えてくれていると思われる。

 

 

歴史研究から見る電子裁判記録の課題―大規模コーパスの構築・運用の現状から

 

長 野 壮 一(社会科学高等研究院 (EHESS) 

レイモン・アロン社会学政治学研究センター博士課程)

 

電子裁判記録を司法史料として保存・活用する際の課題を考える本シンポジウムの主旨に鑑み、本報告は、人文情報学ないし法制史研究における司法史料の電子化の現状、および電子司法史料を利用した歴史研究の実例を紹介することで、電子アーカイブの構築と運用に関する議論に資することを主眼とする。

まず電子アーカイブの構築に関しては、大規模コーパス整備の事例として、わが国を発祥とする国際標準のアーカイブ「SAT大蔵経テキストデータベース」を紹介する。その際、唯一真正な決定版テキストが不在なデジタル学術基盤の構築に際し、TEIやIIIF、Unicodeといった国際規格に準拠することの意義を検討する。

続いて電子アーカイブの運用に関しては、大規模コーパスを用いた計量分析ないし人文情報学研究の事例として、斯界有数の刑事裁判電子史料集成である英国「オールド・ベイリ・オンライン」の所収史料を利用したテキストマイニングの研究成果を紹介し、その研究史における意義を考察する。加えて、アーカイブ所収史料による研究を促進するために、プロジェクトの運営側がどのような仕組みを設計したかを検討する。

これらの事例紹介を踏まえて、報告の末尾に、歴史研究から見た電子裁判記録の課題と展望について寸評を加える。

 

 

電子記録管理論から見る裁判記録の課題―アメリカ連邦政府を中心に

 

坂 口 貴 弘(創価大学)

 

日本の公文書管理制度やアーカイブズ制度は、アメリカなど諸外国の影響を一定程度受けながら、この十数年で著しい変容を遂げつつある。もっとも、これらの制度は紙記録の物理的な移管・保存・公開を前提として設計されてきた。既に大多数の公文書等がデジタル形式で作成されている以上、これらを適切に保存・公開する仕組みの構築は喫緊の課題である。

本報告が主な検討対象とするアメリカ連邦政府の記録管理制度は、その顕著な特徴として、アメリカ国立公文書館(NARA)が連邦政府全体の記録管理を指導監督する強力な権能を有することが挙げられる。本報告ではまずそれを概観した上で、行政府の制度と照らし合わせつつ、連邦裁判所の記録管理制度についても検討する。

電子記録の普及が従来型の記録管理に大きな変容をもたらしている点は、アメリカも同様である。そこで次に、1990年代以降の欧米における電子記録の管理・保存をめぐる議論動向を分析する。その際、最も大きな課題となったのは電子記録の信頼性保証の問題であるが、その際に古文書学や法学における証拠の概念が参照されてきたことにも論及したい。

これらの影響を受けたアメリカ連邦政府の電子記録管理が、近年どのような展開を見せつつあるのかについて、評価選別、移管、公開、閲覧といった実務領域に即して検討する。これらの制度が、電子的に作成・管理される裁判記録にいかに適用されるかに言及するとともに、これらの制度の意義と日本への示唆についても考察したい。

 

 

〔自由報告〕

 

フランス留学時代の富井政章―西洋と日本の美術の架け橋―

 

フレイヤ・テリン(ルーヴェン・カトリック大学)

 

旧刑法、旧民法に対する強力な批判者であり、また明治民法の起草にあたり重要な役割を果たした富井政章は、明治期を代表する法律家の一人である。しかし、同じく明治民法の起草者であった穂積陳重や梅謙次郎と比べると、彼を取り上げた研究は多くない(近年の成果としては、ベアトリクス・ジャリュゾ「富井政章と杉山直治郎―日仏会館創設における法学者の役割―」『日仏文化』(83)(2014))。その証拠に、今日においても知られている伝記的事実は、杉山直治郎編『富井男爵追悼集』(日仏会館、1936)に記述されているものの域を出ていない(富井政英「祖父富井政章の思い出」『立命館百年史紀要』12(2004)は、晩年をともに過ごした家族によるものとして貴重である)。とりわけ、1877年から1883年にかけてのフランス留学時代は、彼の法学者としての基礎を形づくった重要な時期であったにもかかわらず、ほとんど知られていない。そこで本報告では、ローヌ県・リヨン首都公文書館、シューマン法大学図書館に所蔵されている資料(学生ファイル、論文指導教授のメモなど)を用いて、留学中の学習状況を詳細に明らかにする。このことは、明治期の法学者の留学実態を明らかにするものとしても意味のあることであろう。

加えて本報告では、これまであまり知られていなかった富井の別の「顔」も紹介したい。私費で留学した富井が、リヨン大学で学び、ついに博士号を取得することができたのは、来日経験のあるリヨンの実業家エミール・ギメによる支援のおかけであった。その支援への対価として富井は、ギメのもとで、彼が収集した東洋美術のコレクションの整理に献身的に協力した。このことを裏付けるようにギメ東洋美術館図書館には、この当時、富井が執筆、翻訳した書類、ギメ夫妻への書翰、日本美術に関するメモと画家・版画家河鍋暁斎に対する評価などを記した小冊子などが所蔵されている。書翰については、大村敦志氏が一部翻刻されているが(『不思議の国の富井政章―失われた「原形」を求めて―』(東京大学法学部大村敦志研究室、2017))、本報告では、より多くの資料を活用して、富井が「西洋と日本の美術の架け橋」であったことを明らかにする。

 

 

会場までのアクセス

 

早稲田大学早稲田キャンパス 大隈記念講堂(小講堂)

〒169-8050

東京都新宿区西早稲田1−6-1

 

東京メトロ東西線/早稲田駅 3a・3b出口から徒歩5分

都バス 学02 (学バス) 高田馬場駅 – 早大正門 徒歩1分

 

※キャンパス内には駐車場がありませんのでご了承下さい。

 

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