【法制史学会企画委員会 企画紹介】


法制史学会 2004・2005年度 春季シンポジウム企画

「コード・シヴィルの200年〜外からのまなざし/内なるまなざし〜」

 20世紀が終わりを迎える頃から、いたるところで近代法システムの揺らぎが指摘されるようになった。こうした状況のなかで、法制史学会は、問題意識を共有するにとどまらず、これまで近代法を再定位するための積極的な提言を試みてきた。
 それを象徴するのが、1999年秋の第47回研究大会(於大阪大学)で開催された「近代法の再定位―比較法史学的試み―」である。このシンポジウムの成果は石井三記・寺田浩明・西川洋一・水林彪編『近代法の再定位』(創文社、2001年)として刊行されるとともに、2003年春の第55回総会(於早稲田大学)のミニ・シンポジウム「ジェンダーの法史学─近代法の再定位・再考」によって、さらなる議論の深化をみたのである。
 本シンポジウムの企画は、このような法制史学会の主体的取り組みのなかに位置する。換言すれば、本シンポジウムは、日本の近代に多大な影響を及ぼしたとはいえ、遠い外国の民法典が施行200年を経たといった曖昧な企図をもって進められるものではない。むしろ、本シンポジウムは、近代法システムの最も重要な起点となったコード・シヴィルに焦点をあてて、法制史学会がこれまで取り組んできた、近代法システムの揺らぎのなかで近代法を人類史的にいかに再定位すべきなのか、という難題に正面から取り組むべく、企画立案されたのである。
 本シンポジウムはまた、これまでの法制史学会の例にない、2年連続の野心的な企画である。このこともまた、重要な企画だから2年越しで行おうというだけの杜撰な企図によるものではない。むしろ、ポストモダンが謳われる時代状況において、近代法システムとも密接な関連を有する本質主義的なアプローチから、機能主義的アプローチへの転換をプログラム構成の段階から反映させようとした結果なのである。
 2004年春の第56回総会(於一橋大学)では、「コード・シヴィルの200年T〜外からのまなざし」を3本の招待講演を軸に組み立てる。日本・ドイツ・北米というコード・シヴィルの影響をさまざまな形でこうむった3つの地域の民法学専門家を招待し、それぞれが専門とする地域の民法典および民法学へのコード・シヴィルの影響について、「外からのまなざし」を通して語ってもらう。コード・シヴィルは、どのように外から見えており、現実にどのように機能しているのか。中途半端にバランスの取れた「まとめ」をあえて求めず、外在的でしかも実定法的な視点に徹底的にこだわることで、翌年度の議論のための確かな土台を模索せねばならない。
 2005年春の第57回総会(於桐蔭横浜大学)では、「コード・シヴィルの200年U〜内なるまなざし」を学会員の研究報告を軸に組み立てる。前年度のシンポジウムであえて封印した、日本の法制史学者によるコード・シヴィルの内在的な研究報告が、「内なるまなざし」を強く意識した形で、本格的に展開される。コード・シヴィルを生み出し、それが作り上げていった法文化的土壌とはどのようなものか。コード・シヴィルは、時空を超えて我々に何を問いかけているのか。内在的な視点をより深めるために、フランスから専門家を招聘し、パネルディスカッションも含めた活発な議論の舞台が用意される。
 しかし、どれほど「内なるまなざし」にこだわろうとも、議論に際して「外からのまなざし」を忘れてはならない。これは言うは易く行うは難しであるから、報告者のみならず会員諸賢が「外からのまなざし」を通じて得たものを十分に咀嚼するための時間が必要不可欠である。企画委員会がこのシンポジウムのために春秋連続という形を取らず、1年間というインターバルを設定したのは、そのためである。
 近代法システムの最も重要な出発点であるコード・シヴィルを、200年の時空を越えて、我々はどのように再定位するのか。それは現代の法制史学に課された重い課題であり、現代を生きる我々の使命である。本シンポジウムを通じて、法制史学会は、この困難な課題に怯むことなく正面から取り組み、法制史学の見地からしかなしえない積極的な提言にまで踏み込みたいと考える。会員諸賢の積極的な参加を期待する次第である。
(2004-01-13掲載)


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